「突然ティッシュ箱」番外編 〜もしも土屋クジだったら・・・〜
『土屋光君の首に腕を絡めてください。』
昼休み。久美子は、一人職員室で考えていた。
「ん〜・・・これって土屋の首にぶら下がれってことか?」
紙を見ながら、なんとなく土屋の背丈を思い出す。
ぶら下がるとまではいかなくとも、身長差を考えるとちょっと大変だろうか。
手をかけるくらいなら簡単だけど、腕を絡めろ、だ。
「でも絡めるって?・・・巻きつけるって感じか?いや、絞めろってことか・・・?」
だんだん物騒な話になってきているもよう。
「はぁ・・・わかんない・・・。・・・屋上、行こ・・・。」
考えるのに疲れた久美子は、頭を冷やそうと屋上に行くことにした。
「おっ!土屋ーっ!お前っ丁度いいところにッ!?」
「っ?!・・・なんだ、ヤンクミか」
屋上で一人、ぼんやりしていた土屋は突然の声に驚きながらも、嬉しそうな笑顔と二人きりという状況に内心とてもドキドキしていた。
「・・・・・・なんかようか?」
問いかけながら、扇子が忙しなく動く。
意識してしまう自分がなんとなく恥ずかしい・・・。
「お前、ちょっと立ってみてくんないか?」
「は?なんで?」
「いいからっ!」
「わかったよ・・・」
頭を捻りながら渋々という感じで立ち上がると、久美子は真正面に立って腕を組んで考え始めた。
「・・・なんだよ?」
首のあたりをジーッと見上げながら唸り声を上げること数秒。
「おい・・・?」
今度は一歩ずつ距離を詰めてくる久美子に、土屋は焦った。
すぐ後ろがベンチで、自分からは遠のくことはできない。
ドックン、バックンと心臓が鳴り響く。
視線をヒシヒシと感じる首もとが、とんでもなく熱かった。
(・・・な、なんだっ?何がおきてんだっ?!?!)
靴のつま先があと少しで触れそうってぐらい近くで見上げられて、土屋の頭はパニック寸前。
緊張しまくって身動き一つできず、扇子が地面に落ちた。
「・・・お前、やっぱ背高いな」
が、難しい顔をして考え込む久美子には真っ赤な顔で固まっている彼の動揺などまったく気づいていないらしい。
それから少しの間の後、にこりと笑って久美子は離れた。
「悪かったな。昼休み邪魔しちゃってっ」
背中を向けた久美子がドアに近づいた頃、やっと緊張がとけた。
「・・・・・・はぁーーーっ・・・・・・なっ・・・なんだったんだ・・・」
ドッと疲れた感じがして、深い溜息を吐きながら身体を曲げて扇子を拾う。
と、その時。
「土屋ーーっ!今日の放課後、ちょっと待っててくれっ!!」
上半身をおこしながら目を向けた。
まさか居残りっ?!と、一瞬眉を寄せながらも
にこやかに笑いながら手を振る姿が可愛いなんて思った次の瞬間。
「一緒に帰ろうっ!!」
「!?!?」
せっかく拾った扇子は、また地面に落ちた。
放課後。人気のない公園で、土屋は真っ赤な顔で再度固まっていた。
(いったいなにが起きてんだ・・・っ?!)
目の前に。というか、もうすぐ傍、下に、好きな女の顔があって。
首まわりには腕の感触と、ほど良い重みもあって。
おまけに触れ合ってる身体・・・・・・。
これを意識しない男なんていないだろう。
ましてや好きな女なら尚更。
突然腕を首に回されて、ぐっと近づく、顔と身体。
暖かいぬくもりと優しい香り。
彼女の重さ。
好きな女にこんなことされて、なにもしないなんて男が廃るっ!!
と、思いつつも。相手はあの山口久美子だ。
悲しいかな、男として意識されていないのは日々の言動で明白。
「・・・ヤ、ヤンクミっ・・・・・・」
けれどそろそろ理性の限界・・・。
微かに震えそうになる手にぐっと力を込めて、その身体に触れようとした直前、久美子が口を開いた。
「なぁ、土屋・・・?」
「なっなんだっ?!」
情けないかな、思いっきりビクついてしまった。
(あ゛ぁ゛ーーーっ!?もっとカッコよくスマートにできねーのかっ!?俺っ!?)
くぅっ!と、自分で自分の情けなさに文句を垂れるが
続く久美子の言葉にかなりのショックを受けてしまうのだった。
「首に腕を絡めるってこれでいいのか?」
「・・・・・・・・・・は?」
「それに・・・。これにいったいどんな意味があるんだ?」
「・・・はぁっ?!」
「首に引っ付いてるだけだろ?これ・・・。」
しがみついたまま首を傾げて問う久美子に、土屋はショックのあまり声もでなかった。
(引っ付いてるだけって・・・。鈍すぎるっていうかっ完全に意識されてねーよ・・・俺っ!?)
日頃から明白だったことだけど。ここまでしといて、この疑問ってなに?
てゆーか、全然意味がわからねー・・・。
(もー俺は泣きたい気分だぜっ・・・)
その後。詳しい事情を聞いた土屋は、いまだ少しショックを感じつつもちょっと前向きに考えることにした。
そのクジのおかげで、久美子に触れられたのだ。(・・・意識はされてないけど・・・。)
最初から知っていれば動揺したり緊張したりしないで、抱きしめたり独占できたかもしれないけれど
今までにないくらい、イイ思いはできたのだから。
そしてこの日から。自分の首に手を掛ける癖が、彼にはできたらしい。
後日。
女子高生から隠し撮りされていた写真を渡された久美子は、真っ赤な顔で震えていた。
「なっ・・・ななななにっこれっ?!」
「あの時の写真じゃねーか。幽霊でも写ってんのか?」
「そ、そそそういうことじゃなくてっ!?こ、これっ・・・これっ・・・っ」
「・・・・・・?」
(こ、こここれじゃまるで、わ、私がきっキスをねだってるみたいじゃねーかぁ・・・っ!?!?///)
『土屋光君の首に腕を絡めてください。』
その行為の意味に、やっと気づいた久美子であった。 終