「突然ティッシュ箱」番外編 〜もしも日向クジだったら・・・総受けバージョン〜


「おーいっ!お前らっちょっと待てーーーっ!?」

放課後。竜たち5人組は、校門のところで呼び止められた。

背後からの大声に驚いて振り向けば、担任である久美子が校舎から駆け出してくる姿があった。

「ヤンクミ?」

「なに慌ててんだ?あいつ」

「つーか・・・鞄振り回しすぎ・・・・・・」

なぜか酷く慌てた様子で、鞄を持ったほうの手を忙しなく動かして走る様に武田は不思議そうに首をかしげ、隼人と竜は呆れ顔をしながらも、立ち止まって彼女を待った。

「俺らなんかしたか?今日」

のんびりと扇子を扇いで走ってくる姿を眺めていた土屋の問いかけに、4人とも首を捻る。

何時間かサボったけれど、数学とHRはしっかり出たし、問題になるようなことをした覚えもない。

「してねー。まさか補習とかっ?!」

が〜んっ!っと頭を抱える日向の言葉に、隼人と土屋が思わず苦い顔をした。

とっさに身体を戻して歩き出そうとする二人に、微かに苦笑いを浮かべて久美子を見てる竜の声がかかった。

「それはねーだろ。ジャージじゃねーし」

確かに彼女のスタイルは帰り支度万全で、これからまた教室に引き戻されるような感じじゃない。

「そうだな・・・」

3人はホッと息をついて、再度久美子を待つ。

が、ではいったいなんなのだろうか?

疑問に思いつつも5人は待った。

必死で自分達を追いかけてくる姿に小さな笑みを浮かべながら。

呆れて。でもちょっと嬉しい。そんな気持ちで。



「はぁ・・・はぁ・・・・・・よ、よかった・・・間に合った・・・」

ようやく5人の目の前まできた久美子は、肩で息をしながらも安心したように笑った。

「大丈夫かよ・・・・・・」

よっぽど慌てていたのか、酷く酸欠気味の久美子にいち早く竜の素っ気無くも気遣わしげな声がかかる。

「・・・はぁ・・・あ、ああ・・・大丈夫だ・・・」

竜に向かってにこりと笑う久美子に、隼人は少しむっとして緩んでいた口元を閉じた。

「俺らも暇じゃないんで、用があるなら早く済ませてくだパイ」

そう言いながら、気だるそうに久美子から視線を逸らしてしまう。

「心配するんな。ちょっと日向に用があるだけだから・・・」

はぁーーっ・・・と一際大きく息をついて言った言葉に、隼人の機嫌はさらに悪くなった。

久美子から言わせれば、暇じゃないという隼人を気にしての言葉なんだろうが、隼人からすれば

自分にはなんの用もない。関係ない。そんな風に言われた気がして、酷く癇に障った。

竜も似たような気持ちらしく、久美子を見る顔には微かに眉間に皺が寄ってる。

なんとなく漂いはじめた冷たい空気に、武田は苦笑いを浮かべ、

土屋は扇いでいた扇子をパタリと閉じて、引きつり気味な顔で視線を逸らした。

そんな雰囲気も気づかないのは、日向と久美子のみ。

「な、なんだよ・・・ほ、補習なら受けねーぞっ!」

あたりの空気よりも自分の身が気になる日向は、目の前に来てにこりと笑う久美子に腰が引ける。

「心配すんな。補習じゃないから。ただちょっと手をかしてほしいんだ。いや・・・身体もか?」

「・・・は?」

久美子の言葉に日向は一瞬動きを止めた。

隼人と竜はますます眉を寄せ、武田と土屋は意味がわからないと首を捻る。

5人揃ってるときに人から手をかしてほしい、しかも自分指定で。なんて経験があまりない日向は一瞬言葉を失うも、すぐに照れくさそうに頭をかいた。

「そ、そーだな〜・・・ヤンクミがどうしてもっていうんなら、俺の力をかしてやってもいいぜ〜?」

嬉しそうな日向に隼人と竜の鋭い視線が飛ぶが、かなり浮かれている彼はすっかり自分の世界を作っているようで、全然気づいてない。

そんな日向に、久美子のあまりに素っ気無い声が届いた。

「いや、力はいらないんだけど。手だよ、手。」

「え?」

一瞬にして現実へと戻された日向は、意味の違いにショックを受ける。

「ちょっと手を出せ、日向」

まぎらわしい言い方しやがって・・・。

と、5人が一斉に心の中で呟いたその時。


5人に衝撃が走った。


ほれ・・・と、

投げやりに出された日向の右手を久美子が握ったのだ。

キュッ・・・。

と、二人の手が繋がった瞬間。

5人の表情が一変する。

凄まじい怒気を放つ隼人と竜の顔は驚愕とショックと怒りに染まり。

武田と土屋も二人ほどではないけれど、視線が鋭さを増した。

そして手を繋がれた日向は、一瞬ポカンとしながらも握り合ってる手のぬくもりに思わず顔を赤くした。

その反応が、さらに4人の怒りを煽る。

「よしっ!帰るぞっ!」

ぞわっと殺気立つ空気の中で、久美子の明るい声が響いた。

そのままルンルン気分で歩き出す。

惚けてる日向の手を握ったままの久美子に、武田と土屋が慌てた。

「ちょっ、ちょっとヤンクミっ?!」

「なんで日向と手繋いで帰るんだ・・・・・・ッ?!」

追いかけようと足を踏み出そうとした瞬間、はたっと我に返る。

ビリビリと感じる凄まじい殺気に固まった。

(やっ・・・やばいよっ!つっちーっ、ど、どうするっ?)

(ど、どうするったってっ・・・俺だって・・・こえーーよっ・・・)

踏み出そうとした体制のまま、ダラダラと冷や汗を流す。

ビリビリ感じる殺気が恐ろしい・・・。

(こ、ここは・・・俺らの出番じゃねーよな・・・?)

(だ、だよね・・・・・・。ここは・・・二人に任せた方が・・・)

お互いに視線をチラリと合わせ、ゴクリと唾を呑み込み、そして・・・。

((・・・あとはまかせたっ!!))

と、素早く両端へと移動するのだった。

(ごめんっ日向っ!)

(恨むなよっ!)

横切っていく二つの凄まじい殺気に震えながら、武田と土屋は心の中で手を合わせていた。


未だ惚けたまま久美子に引っ張られる日向とルンルン気分の久美子。

二人の間で揺れる手に、隼人と竜の手がギリッと音を立てた。


背後から恐ろしい二人が迫ってきているのにも今の日向には気づかない。

ただ繋いだ手から感じるぬくもりが物凄く心をドッキンドッキンさせていた。

「よっしっ日向っ!公園に寄ってくからなっ!」

そのにっこりとした笑顔に日向が目を奪われた次の瞬間。

「ちょっと失礼?」

二人の間に、隼人が割って入った。

日向の肩と久美子の腕を掴み、物凄い威力でガッと二人の手を無理やり引き離して

久美子の隣を奪うと、にこりと笑って日向の肩を軽く叩いた。

その笑顔に含まれる殺気に日向の赤かった顔は一瞬にして青く変わり、その場でビシッと固まった。

「お、おいっ!!なにすんだよっ矢吹っ・・・って・・・えっ?」

いきなり割って入ってきた隼人に、久美子は怒って掴まれた腕をはずそうとすると

今度は反対側の手をグイッと掴まれた。

「お、小田切っ?!な、なんだよっ・・・え?ちょっと?!」

驚いて振り向くと、竜に手を取られていた。

竜の方に気を取られているうちに、隼人も久美子の手を握る。

そして二人は、間の久美子を引っ張るようにして歩き出した。

「なっなんだよっ!!おいっ!!わっわたしはっ日向と手を繋いで帰るんだよっ!!」

引っ張られながらも、後ろで固まっている日向へと視線を向けようとする久美子に、二人の握る力が強まる。

ムカツク、ムカツク

ムカツク・・・・・・・・っ!!

前方を睨みつけながら、抵抗する久美子をひたすら引っ張って歩いた。

前を歩く通行人を殺気で追っ払い、固まってる奴は容赦なくふっとばし。

ズンズンと突っ切っていった。

絶対に離すもんかっ!!と。


「日向ーーーーっ!!!」

「うるせっーーっ!!」


どんなに久美子が暴れようとも。日向の名前を縋るように呼ぼうとも。

それは結局二人の怒りに触れるばかりで。

久美子はそのままズルズルと、まるで連行でもされるように引きずられていくのだった。     終