夏休み
〜おまけストーリー〜



夏休み。ある四人の男共は、照りつける太陽の下を午前中のはじめから、街に繰り出していた。
目的はもちろんナンパなのだが、夏休みに入ってから遊びまくり、
二週間を過ぎた頃からナンパにも飽きてしまい、ただ何となく街をぶらついていた。

「なーんか、暇なんだよなー」

日陰になった木々の植えられた花壇の隅に座っていた南が、
退屈げに呟やいた言葉に他の三人も共感する。
ナンパに成功して、女の子達と遊んでもどこか退屈で、ゲーセンに行ってもつまらなく感じる。
なにか物足りなくて、ふと思うことはみんな同じ事だけど、口にする奴はいなかった。

あんなこと思うなんてあり得ないだろ。

学校に行ってたほうが楽しいなんて・・・。


「そういや、慎は?」
ふと思い出したように野田が呟いた。
夏休みに入ってからもほとんど同じメンバーで過ごしていたが、
今日は五人の中の、いや3Dのリーダー的存在である沢田 慎の姿はない。

「なんか用があるんだってさ」

「「あの慎に?!」」
めんどくさそうに答えた内山の言葉に、野田と南は、そろえて驚いた声を上げる。

「何のようだよー。・・・もしかしてあいつ、ちゃっかり彼女つくって一人で楽しんでるんじゃっ!!」
こっちは暇でしょうがないのに・・・と八つ当たりじみた事を思う。

「そりゃないだろ。何の用かはしらねーけどさぁ・・・なあクマ」
内山の言葉に、一斉に視線がクマに集まる。

目立つ巨体と金髪の頭はすぐに発見できたのだが、
ついさっき買ったソフトクリームをほおばりながら、三人から離れて、何かを見ていた。

「おいクマっ!!なにやってんだ、お前」
素早く駆け寄った南が、クマのでかい背中を叩きながら彼の視線をたどる。

道路向こうに見えるソレは、赤い屋根のケーキ屋。
正面は全て透明なガラスになっていて、店の中のショーケースまでよく見える。

「お前、まだ食んの?まだアイス食ってるでしょうが〜」
ソフトクリームのコーンをバリバリと食べながら
ケーキを物欲しそうに見つめるクマに、野田が呆れた視線を送る。

「だってよー、すっげーうまそうじゃねー?あのケーキ!!
それにアイスとケーキは別もんだぜっ」

力いっぱい答えるクマの台詞に野田と南は顔を歪める。

「何か聞いてるだけで腹がいっぱいになるぜ・・・」
「てゆーか、食べてもないのに腹んなか、おかしくなりそー・・・」
アイスのあとケーキを食べるのを想像して、お腹をさすりながら溜息が出る。

その時、歩くのも面倒くさそうに、遅れて近寄ってきた内山が何かを見つけた。

「ーーー・・・なぁ、あそこにいるのヤンクミじゃねー?」

「は?どこ?」

「店ん中にいる客」








「ヤンクミだな、ありゃ・・・」

道路を渡り、店の前に来た四人は、内山の言う客を見やり、確信した。

ジーパンにノースリーブ、ポニーテールの髪は普段のヤンクミとは違うが、
街中だというのに、どこか所帯じみたスーパーの袋をぶら下げ、
ショーケースにベタッと張り付いている姿、雰囲気はよく知る担任山口久美子に間違いは無いっ!!
と、ケーキにしか目のいっていないクマを除いた三人は、強い確信を抱いた。

「間違いなく」

「いや、絶対に」

「「「ヤンクミだっ!」」」







「いらっしゃいませー!!」

ケーキ屋に元気な女の人の声が響く。
男4人でケーキ屋に入るのは、かなり苦しいが、四人は意を決して店に入った。
クマは真っ先にショーケースのケーキを品定めし、内山達はクーラーの効いた
ヒンヤリとした店内に生き返るような気持ちよさを感じながら、久美子に目をやる。

南と野田は、ニヤニヤしながら久美子に近づき、ナンパ口調で声をかけた。

「ねぇー、カノジョっ!」

「な〜にやってんの〜〜〜?」

「・・・うーん・・・やっぱり・・・いや・・・」

話しかられたことにも気づかない久美子は、
何やらブツブツと呟きながら難しい顔をしてゼリーを睨んでいる。
そんな久美子の様子に、店員もチラチラと顔を引きつらせて、久美子を気にしていた。
すっかり自分の世界に入っているらしい久美子に、野田と南は顔を見合わせた。

「おーい、ヤンクミ。なにやってんだよ」

「ヤンクミー?」
久美子の肩を叩き、声をかけた瞬間、

「うるっさいなー!!今私は、忙しいんだよっっっ!!」

久美子がグイッと突然勢いよく振り返り、店内に怒鳴り声が響き渡った。

すぐ近くで大音量な怒鳴り声をきいた野田と南と店員も固まって、店内に妙な沈黙が漂う。

「・・・ッ・・・クッ・・・」

その妙な静寂を破ったのは、野田達の後ろにいた内山の堪えきれなくなった笑い声だった。

その声に、一同はハッと我に返った。

「ーーーーあれっ?内山・・・って、なんだ、お前らもっ!!なにやってんだ??」

「そりゃ、こっちのセリフだって」

「ゼリーなんか睨み付けちゃって」

「え?・・・ーーーーあっ、そうだった!!お前ら、いいところに来た!!」

しばらくポカンとしていた久美子は、突然何かを思いだしたように、野田達にズイッと詰め寄った。

「な、なんだよ?」


「沢田って、甘いもの好きか?!」


「「「・・・・・・は?」」」


内山達は久美子の言葉に、一瞬何を言っているのかわからなかった。

「好きそうな顔はしてないけどなー、以外に好きかもだし・・・」

「「「・・・・・・・・・」」」

固まったまま久美子の話を耳にしながら、三人は心の中で同じ事を思った。


(なんだよ・・・なんで、慎がでてくんだよ・・・)


「夏だし暑いし、やっぱゼリーがいいと思うんだけど、色々あるだろ?
 いろんなフルーツが入ったのがいいと思うんだけど、甘いもの苦手だったらコーヒーの方がいいだろ?」

「・・・なぁ、なんでそんなこと・・・」

内山は、顔をしかめながら固く低い声を出した。

「え?!・・・ーーーーーあー・・・となぁ・・・・」

ショーケースの中のゼリーを見つめながら呟いていた久美子は、
内山の言葉に反応して、急に言いにくそうに声を濁らせ、気まずそうな顔をして視線を下げた。

そして、その顔がしだいに淡く染まっていく様子に、三人は顔をしかめた。

久美子を睨み付けながら、フツフツと胸の中に何かがわき上がってくる。


(なんか苛つく・・・なんか、すげーむかつく・・・なんなんだよっ・・・)


そして、久美子がポツリと話した内容に、三人の顔が思いっきり引きつり、
心の中一杯に、苛立ちが広がっていくのだった・・・・・・。